2014年10月18日

2つの香港

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香港のアートフェア、ACAS HONG KONGの2日目(10月3日)、橘画廊の部屋に若い女性客、Aさんがいらっしゃった。以前、インターネットで寺村サチコの作品画像を見て気に入り、連絡してきた方だ。香港に行く前、e-Invitation(電子招待券)をお送りしたら、民主派による中心部占拠活動(デモ)の真最中にもかかわらず、夜の時間帯にやってきた。彼女は今年、大学を卒業したばかり。胸には黄色いリボンをつけていた。

学生をはじめとする民主派によるデモは、黄色いリボンを運動のシンボルとしている。Aさんは、知り合いの多くの学生が運動に参加しているためデモに加わるのだと話していた。デモの真最中にもかかわらずやってきたというよりも、デモに行く途中、アートフェアに寄ったという感じだったのかもしれない。前回書いた通り、アートフェア会場のコンラッド香港がある金鐘(アドミラリティ)は民主派の拠点なのである。

民主派のシンボルが黄色いリボンである一方、民主派をつぶそうとするデモ反対派のシンボルは青いリボンである。地元の方の話によると、黄色いリボンの民主派は香港の中でも香港島の価値観を、青いリボンの反デモ派はビクトリアハーバーをはさんだ対岸、九龍半島の価値観を体現している。香港島、特に民主派が占拠した金鐘や中環(セントラル)は超高層ビル(コンラッドもその一つ)が林立し、欧米人を多く見かける地域だ。

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ひるがえって九龍半島の旺角(モンコック、まさに最初の衝突が起きたところ)、佐敦(ジョーダン)あたりはごちゃごちゃしていて庶民的な街である。今回は時間もなく、九龍半島側では、佐敦の食堂に一度行っただけだったが、派手な看板が折り重なり、金鐘、中環とは別の国のような風情であった。香港が国際金融都市だといっても、中心部のオフィス街から離れれば、さほど豊かな地域でもないという印象がある。

そうした中、九龍半島=反デモ派と同派に共感する人たちからみれば、香港島の価値観を体現する学生たちの占拠活動は憎悪の対象であるらしい。「働かなくても生活できるから一日中座り込んでいるだけ。どうせ大学を卒業したらスーツを着て中環や金鐘の金融機関か大企業に就職するのだろう」。そんな反感に満ちた目で見ているようだ。香港島=民主派が「民主主義の危機」を訴えたところで、分かち合えるものはあまりない。

香港島的な価値観を持つ人たちの香港と九龍半島的な価値観を持つ人たちの香港が同居することの矛盾。6日間の滞在で見たり聞いたりした範囲でも、デモをきっかけにそれ(矛盾)が一気に噴き出したのだと思わざるを得なかった。上の写真は民主派の拠点で、超高層ビルが並ぶ金鐘。歩道橋にも民主派のシンボルである黄色いリボンがつけられていた。下の写真は佐敦。庶民的な商売の街。
posted by Junichi Chiba at 02:48| 海外

2014年10月13日

香港のデモ

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香港のアートフェア、ACAS HONG KONG(10月2〜5日)に参加した。香港に到着した1日は大型連休の初日。例年ならこの日から、買い物目当ての観光客が押し寄せたはずだが、今回は民主派によるデモの真最中。アートフェアの会場、コンラッド香港の近くの幹線道路も封鎖され、ビジネスにかなりの影響があった。

明らかに支障をきたしていたのは中心部の交通だ。コンラッド香港がある金鐘(アドミラリティ)は民主派の拠点。すぐ近くの道路が封鎖されているため、アートフェアの事務局自体が車での来場を控えるよう呼びかけている状態だった。幸い、空港からホテルまでは高速鉄道と地下鉄を乗り継いで移動することができたが、もし車でしか運べない荷物があったらと思うとぞっとする。

タクシーもダメ、バスもダメ、路面電車もダメ。地上の交通が麻痺している反動で地下鉄はとても込んでいる。いくらホテルやショッピングモールが安全でも、こんな状況では、アートフェアに行くのをためらっても無理はない。土曜日までは、ほとんど何も売れていないギャラリーも珍しくなかったらしい。4日(土)の夜、中国のギャラリーの方がやってきて、「きょう、いくつ売れましたか」と聞くので、「3つ」と答えたら「Excellent(素晴らしい)」と言われてしまった。

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しかし、さすがは香港である。2日目よりも3日目、3日目よりも4日目と、お客さんが増えていった。土曜日の夜には、「日曜の午後7時半(フェア終了時間)までに行けそうもないのですが、日曜の遅い時間にはいませんか」という連絡をいただいた。デモ真最中の、あんな状況ではとてもうれしいことである。そう言われたら、日曜日、何時まででも待っていないわけにはいかない。無事、その方には作品をお買い上げいただいた。

上の写真は、民主派に占拠された金鐘の幹線道路。下の写真は民主派の声明文(部分)。
タグ:香港
posted by Junichi Chiba at 23:17| 海外

2014年09月06日

AHAF SEOUL 2014

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旅客船沈没事故に伴う自粛ムードの広がりにウォン高による輸出企業の採算悪化。先月、韓国経済が不況の入り口にあるといわれる中、ソウルのホテル型アートフェア、AHAF SEOUL 2014(8月22〜24日、ロッテホテル・ソウル)に参加した。思った以上の成果が上がったが、その中で一つ、初めての経験をした。お客さまのお顔もお名前もわからないまま作品を販売するという経験である。

最終日の終わり近く、アートフェア事務局のスタッフがスマホで電話をしながら橘画廊の部屋に入ってこられた。ときどき私の話も聞きながら電話の相手に作品の説明をしている様子だった。買うか買わないか迷ったまま帰路につかれた方が途中、購入へと気持ちが傾いたが、橘画廊は韓国語が通じない(通訳はいなかった)。そこで事務局に電話をかけられたという状況であった。結局、その方にはご購入を決めていただいた。

事務局スタッフによると、アートを購入された経験はあまりない年配の男性であった。ご家族と相談されたという話もうかがった。日韓関係が良くない中、初めて見たであろう日本人の作品を気に入ってお買い上げいただいたのは、とてもうれしいことだ。同じ作品に興味を持たれた方は何人かいらしたが、もしかしたらあのときの方かな、とは思った。何かお尋ねになりたそうな感じがあったから、なんとなくそう思っただけではある。

現地の第三者に作品の受け渡しと決済を頼み、翌日、日本に戻った。受け渡し方法を相談する時点で、アートフェア事務局にお客さまのお名前などをお聞きすることもできたが、あえて聞かずにいた。言葉の問題がなかったとしても、ギャラリーと直接連絡を取りたくなかったのかもしれないという考えが頭をよぎったからだ。顧客とどの程度向き合うかはケースバイケース。思い出すたびに、そんなことを勝手に考えている。
タグ:ソウル
posted by Junichi Chiba at 01:49| 海外

2014年03月09日

香港で感心したこと

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香港のホテル型アートフェア、AHAF2014が終わって1週間。作品はまだ香港の倉庫に置かれているが、配送の手配が終わり、ホッと一息だ。振り返ってみて、感心したことの一つは隣の部屋に出展していたギャラリストの姿勢である。

搬入の日(2月27日)、ご近所のギャラリーの顔ぶれを見て回った。対面はニューヨーク、斜め向かいは香港、お隣はDurban……。ダーバン? どこだろうと調べたら、南アフリカであった。そのギャラリーの部屋のドアが閉まりっぱなしである。午後10時過ぎ、橘画廊が展示を終えても、まだ閉まっていた。展示内容を一切秘密にしておいて、翌日、オープンとともにサッとドアを開けるのかな、などと、そのときは想像していた。

しかし翌日、フェアが始まってもドアが開く気配がない。それどころか午後10時にVIPプレビューが終わっても、まだ閉まっている。何か事情があって参加を取りやめたのだろうと思っていたら、3月1日昼過ぎに一人の青年が話しかけてきた。「こんにちは。隣のギャラリーですけど、ドライバーを貸してもらえませんか」。ようやくダーバンのギャラリストが現れたのだ。

彼によると、普通ならダーバンからドバイまで飛行機で8時間以上、乗り継ぎに5時間、ドバイから香港までが7時間。どこかで何かが遅れ、到着が丸1日以上遅れてしまったらしい。フェアの図録に載せた作品がまだ届いていないとも言っていた。それにしては、たいしてあわてている様子もない。きっと普段から世界を飛び回っていて、多少のトラブルには慣れているのだろう。

その彼は顔を合わせると、「調子はどうですか」と、こちらのセールスの状況を聞いてくる。彼のところは決して思わしくはないはずだったが、何か手がかりを得ていこうと情報収集に余念がない様子だった。その姿を見ていて思い出したのは、昔、大手商社の役員から聞いた「あわてず、あせらず、あてにせず、しかし、あきらめず」という言葉である。ビジネスはあきらめたら終わりだから、最後まで放り出してはいけないということだ。

アートフェアは作品の売買だけでなく情報交換やネットワークづくりの場でもある。最終日、彼とは「またどこかで会おう」と言って別れたのであった。(写真は橘画廊の展示風景)
タグ:香港
posted by Junichi Chiba at 18:44| 海外