2017年03月12日

オフィス街のフォークリフト

Toshimitsu Ito Seoul
ソウルのクムサンギャラリーで、伊東敏光展「Collage – Memories In Scenery」が始まった(3月31日まで)。LA ART SHOW 2015のころから展覧会の話があり、2年以上を経て実現にこぎつけた。伊東にとって韓国での個展は初めてである。大統領の不在などもあって韓国の景気が低迷している時期と重なったのは不運としか言いようがないが、海外の活動は長期的な視点で続けていくしかない。

大きな飛行機型の彫刻「Miyajima787」(2016年、木、147 x 400 x 430 cm)を出したため、心配したのは輸送である。分解した「Miyajima787」とほかの作品を入れた木箱の重量は520kg。ギャラリーが入居するオフィスビルの前(車道)までトラックで運んだ後、どうやって木箱をトラックから降ろし展示室に入れるのか、はっきりとした計画が立てられていなかった。

「ユニック車(トラッククレーン)を用意してもらえるか」と、クムサンギャラリーに問い合わせても、「なくても大丈夫」と言うばかりで、任せるしかない状況であった。搬入当日、1時間半遅れでトラックが到着したと思ったら、どこからともなくフォークリフトが現れ、520kgの木箱を車道からビルに向かう歩道の奥(おそらく私道)まで運んでくれた。伊東も私もフォークリフトが現れた瞬間を見ていないのだが、オフィス街の中を走ってきたとしか思えない。その瞬間を見逃してしまったのは残念だ。

Keumsan Gallery Seoul
フォークリフトが木箱を運搬した後は、ビルの前で木箱を開梱し、人力で作品を1階のギャラリー展示室に移動させた。「Miyajima787」の胴体部分を運ぶのは5人がかりである。この作品全体では300kg以上あるだろう。LA ART SHOWで伊東の飛行機型彫刻「AA60」を展示したとき、アーノルド・シュワルツェネッガーさんに「この作品、どれくらいの重さがある?」と聞かれたのを思い出した。ともかく無事に搬入できて、ホッとしている。
posted by Junichi Chiba at 23:15| 海外

2016年03月10日

台北101のプレイベント

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Infinity Japan 2016のプレイベントとして、アジア一の超高層ビル「台北101」のロビーで開かれた展覧会に福元章子の日本画「醒めない夢を」(50号、116.7 x 90.9 cm)を出品した(写真右から3枚目)。台北101はその名の通り地上101階建て、高さは509.2メートル。証券取引所や外資系企業が入居する最先端のオフィスビルであり、一大観光スポットでもある。このプレイベントはInfinity Japanに参加するインセンティブの一つだった。

会期は2月26日までの約1カ月だったが、春節の休みをはさんだから実質約3週間だったろうか。1月下旬に作品を送り出し、あとは主催者にお任せだったので、会期終了間際の2月25日、アートフェア本番のために現地に入ってから、初めて実際の展示を見た。1階に「GALLERY101」というスペースがあり、通路からも福元の作品が目に入った。

これだけなら、予定通り展示されたことを確認して話は終わりである。しかし展示構成は意表を突くものであった。福元の右隣2点はなんと草間彌生の作品で、左は1点間にはさんで村上隆の作品なのである。Infinity Japanは日本の現代アートに特化したアートフェアだから、日本のアーティストの作品が並ぶのは当然なのだが、巨匠にはさまれてというよりも、まるで左右に何とか菩薩を従わせた本尊のごとく福元の絵が飾られていたのだった。

まぁ、おそらくは作品のサイズの関係で、こうした配置にしたのだろう。当初は100号(長辺162cm)の絵を1点送ろうかと思っていたのだが、50号でも十分目立っていたわけだ。出入り自由のスペースなので、入居企業の従業員や来客が行き来する一方、観光客らしき人が来ては写真を撮ったりもしていた。主催者によると、1日3000人(ということは会期中6万人?)が展示を見たそうだ。
posted by Junichi Chiba at 10:20| 海外

2016年03月06日

トークで歌う浅野綾花

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台北のアートフェア、Infinity Japan 2016の関連イベントとして、会場のホテル、Miramar Garden Taipeiの一室で3人の日本人アーティストによるトークショーが開かれた(2月27日)。井上裕起さん、加藤美紀さんとともに出演した浅野綾花は40人ほどの聴衆を前に、今回出品した顔のシリーズについて説明した。

会場の方がカタログをめくって目に留めた作品は「君とデートがしたい」(I wish to have a date with you、2015年、エッチング、コラージュ)だった。ウォン・カーウァイ監督の映画「恋する惑星」(1994年)で主人公を演じたトニー・レオンの顔の輪郭を使った作品である。制作の背景については、1年前、「『恋する惑星』のトニー」のところで書いた通りなのだが、浅野は「チョンキン何とか」と言ったきり、映画について説明しきれない(英語のタイトルはChungking Express、原題は「重慶森林」)。

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トニー・レオンの若いころの映画と言っても聴衆はピンと来なかったため、浅野は両手でマイクを握り、映画の中でフェイ・ウォンが歌った「 夢中人」を歌ってみせた(歌詞はなし)。こちらとしては昨年、映画のロケ地である香港の重慶大厦まで行っているので、あの世界がぐっと近づいたのだが、台湾の方には伝わったかどうか……。

翌日、ボランティアの若い女性2人が展示の部屋に来たときも、浅野が作品の前で「夢中人」を歌ったが、やはりわからずじまい。その代わり、近くにあった作品を指して「蒼井優」と言うと、即座に日本語で「あー、森ガール!」。台湾では香港映画より日本映画の方が知られているのか、単に世代の問題なのか。アジアでポップカルチャーの断片がどのような飛び散り方をしているのかは興味深い。上の画像は浅野(左)と加藤美紀さん、下の画像はトークの様子。
posted by Junichi Chiba at 21:51| 海外

2016年03月04日

おおらかな台北

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台北のアートフェア、Infinity Japan 2016(2月26〜28日)に参加した。Miramar Garden Taipeiが舞台のホテル型フェアだ。台北は大阪市よりも人口が多い大都市なのだが、おうようというか、こせこせしていないというか、ゆるい空気が流れていた。ホテルに着いたときからゆるゆるで、なかなか香港のようには仕事のスイッチが入らなかった。

先にホテルにチェックインしたのはスタッフのKであった。フロントでパスポートを見せ、アートフェアに出展する橘画廊だと伝えたら、登録されている名前と違うと言われた。「それはボスの名前です」と返したら、「あ、そうですか」と、簡単にカギを渡されたらしい。マニュアルではチェックインのときに3000台湾ドルの保証金を払うことになっていたようだが、保証金を払わず、クレジットカードの提示もせず、名前も書かずであった。

少し遅れてチェックインした私は展示の部屋とは別の部屋に宿泊するつもりでいたが、やはり橘画廊だと言っただけで、名前も住所も書かず、クレジットカードの提示もしないままカギを渡された。部屋はフェアの会場と同じフロアだったので、主催者が抑えている部屋の一部を回したということだったのだろう。もしかしたら私はスタッフルームに寝ている人という位置づけで、宿泊者としてチェックインすらしていなかったのかもしれない。

主催者が抑えている部屋であれば、ホテル側としては料金の取りはぐれはないということなのだろうが、私としてはいつ、どういう形で請求書が回ってくるのか、不安がないでもなかった。結局、最終日、撤収に入ってから、主催者に部屋代のことを言ってみたら、すっかり忘れていた。踏み倒せばよかったかなとも思ったが、自主的に金額を言い、クレジットカードでの決済を代行してもらった売り上げから部屋代を引いてもらって精算した。

驚くことはほかにもあった。たとえばカタログの橘画廊の出展アーティストのところには柴田謙司や浅野綾花と並んで、Taikan Yokoyama、Shoen Uemuraなどと書かれていた。えっ、横山大観? 上村松園? うち、現代アートのギャラリーなのですが? という感じで、なぜ、その名前がそこに書かれているのか、まったくわからなかった。しかし「細かいことは気にするな」的なムードが強いため、台北にいる間は「まぁ、それでもいいか」と思えてしまうのである。写真はInfinity Japan 2016の橘画廊展示風景。
posted by Junichi Chiba at 19:27| 海外