
「死は生きることの一部」とは映画「スター・ウォーズ エピソード3」でのヨーダのせりふだが、今、橘画廊で個展「循環+LOOP」を開いている韓国人アーティストのダニエル・リーも「死によってすべてが終わるのではなく、それは新しい出発だ」と話していた。「生きることの一部」であれ「新しい出発」であれ、両者の言葉の背後には、死によって存在が消滅するわけではないという考えがある。
こうした考えは死の恐怖から逃れるための願望であると言われれば、そうかもしれない。しかしこの願望はただの達成できない望みではなく、ときとして社会への大きな影響力を持つ。古くから「死」が人々の想像力を刺激し、宗教や芸術を生み出してきたことには疑いの余地がないだろう。資本主義でさえ死の恐怖を和らげる効果があるから普及したという説もあるくらいで、そうだとすれば死への意識は人間の行動を動機づけているともいえる。
問題は死への意識の表現方法だ。ダニエル・リーの作品は風景や植物を二重露光によって撮影したデジタル写真である(一部パソコンでの合成あり)。素材はコットンペーパーにピグメントプリント(顔料系インク)。樹木と石など質感の異なるモチーフを組み合わせ、微妙な表情をつけている。身の回りにあるものの質感を表現したというより、未知のものの質感を表現した感があり、触れてみたくなるような写真だ。
やすらかでみずみずしく、清らか。草木が小さな居場所を見つけたかのような静謐なドラマのイメージ。アーティストとしての活動とは別に、二十数年来、霊園事業を営んできたリーがどのような死後の世界を思い描いているのかは聞きそびれたが、生と死を無理なく一続きのものとしてとらえる感覚は伝わってきた。画像は「Memento mori A910」(2015年、アーカイバルピグメントプリント、40.6×61センチ)。