2014年02月16日

「パンダ先ぱいのお宅」

Hong Kong.jpg
今月末、香港のアートフェアに参加するので、作品の英文タイトルなどをチェックしている。さぁ、どうしようと思ったのは、芝田知佳の作品タイトルと作品の一部でもある説明文だ。芝田は染織、シルクスクリーン、ドローイングなどの技法を使い、ポップな平面を制作するアーティスト。ある日の食にまつわる記憶の断片を拾い集め、食の記憶を介してかけがえのない経験を呼び起こしているのだが、翻訳がとても難しい。

例えば「渋谷でえんりょしながらトルティーヤチップスを食べる」という作品には、次のような説明文がつく。

綾瀬のパンダ先ぱいのお宅から六本木へ。
少し雨。画塾の旧友と森美術館会田誠展→ストライプハウスギャラリー→目黒と移動。よく動いた。ワタリウムへも行く。夜は前職の先輩とメキシコ料理を食べた。

まずタイトルである。「えんりょしながら」というのが外国語にしにくいが、とりあえずhesitantly(ためらいがちに)を使い、Eating tortilla tips hesitantly in Shibuya.

次に説明文。綾瀬のパンダ先ぱいのお宅……。彼女の元職場の先輩らしい。同じ職場の人ならcolleagueかcoworkerだが、これだと先輩というニュアンスが出ない。かといってseniorとかなんとかつけるのも違う気がする。そもそも先輩をパンダうんぬんと呼んでいて、どの程度、尊敬の気持ちがあるのだろうか。

仕方がないのでこれは、I went to Roppongi from Panda-san’s home in Ayase. に。Panda-sanと、さん付けにすることで敬愛の念が表現されないだろうか。

しかし待てよ、とも思う。香港のアートフェアには当然、中国人がいらっしゃる。中国ではパンダは保護対象だ。Panda-san’s homeと聞いたり読んだりすると、パンダの家から六本木へ行ったとはどういうことかと、戸惑うかもしれない。日本に詳しい方なら、上野動物園のパンダの家から六本木に行ったのかな、とか……。

こうして芝田のオリジナルの和文を翻訳していくと、日本と外国の文化の違いが浮かび上がってくる。おそらくこの部分は簡単には理解されないだろうが、そこは背後に隠しつつポップな作品として普遍性を持ってほしい。(写真は香港・銅鑼湾の繁華街)
posted by Junichi Chiba at 23:21| アート