そんなことを答えると、今度は、依頼がなくて仕事をする場合、あらかじめユーザーの声を聞くのかと質問された。ほとんどのアーティストは自らの直感に従って制作するから、ユーザーの声は聞かない。相手もここまでの答えを予想していたらしい。依頼を受けたわけでもなく、ユーザーの声を聞くわけでもなく、何か作っても売れないよね――。そのせりふを最後に会話が途切れた。
ここからは私の頭の体操である。もし、アーティストがこんなものを作ってほしいと頼まれ、要望通りのものを作ったとしたら、見た人は驚くだろうか。しかも、その要望が多くの人の意見に基づいたものだとしたら……。不可能なことを実現させたというのならともかく、そうでなければ、驚きも感動も少ないであろう。
ここまで考えてきてすぐ思い浮かぶのはやはり、建築家、宮本佳明の「福島第一原発神社」である。普段、依頼に基づいて設計をしている宮本だが、昨年、だれに頼まれたわけでもなく、この「福島第一原発神社」の200分の1の模型を作った。予想外のものが姿を現したものだから、見た人が次々と驚き、その後「会津・漆の芸術祭2012」に呼ばれたり「あいちトリエンナーレ2013」に呼ばれたりしている。
優れたアートは作り手の論理による「プロダクトアウト」から生まれる。ニーズがついてこないこともあるが、運良くニーズがついてくればヒットする。今年9月に亡くなった任天堂中興の祖、山内溥氏は「世の中の人が何に反応するかはわからない。失意泰然、得意冷然」と言っていたそうだ。ゲームのことなのだろうが、アートにも当てはまりそうな気がする。アート志向であるなら、目先の利益にとらわれず作りたいものを作れということだろう。もちろんデザイナーにはデザイナーの、アーティストにはアーティストの難しさがある。
あいちトリエンナーレ出品中(27日まで)の「福島第一原発神社」「福島さかえ原発」の報道は以下のウェブサイトで読むことができます。
The Japan Times
ARTFORUM
artscape学芸員レポート
ABC Arts
【アートの最新記事】