
建築家の宮本佳明が「あいちトリエンナーレ2013」(8月10日〜10月27日)に参加し、福島第一原発をモチーフにした新作インスタレーションを披露する。タイトルは「福島第一さかえ原発」 。メーン会場である愛知芸術文化センター(名古屋市)の地下2階から地上10階までを使い、同原発のフォルムを実物大で描く試みだが、意外にもその素材は赤と黄のカッティングシートである。
美術館や劇場などが入る同センターは巨大な吹き抜け空間を持ち、文化施設としてはこれ以上ないほど立派な建物だ。宮本はそこに福島第一原発の建屋がすっぽり入ることに着目し、今回のインスタレーションを考えた。センターの床、壁、天井などに、幅5センチのテープ状にしたカッティングシートを貼り、原子炉格納容器、原子炉圧力容器、炉心それぞれの断面線などを表示する。原発の大きさを体感してもらうのが作品の狙いだ。
カッティングシートは看板などに使われる塩ビフィルムシートである。ジェットバーナー仕上げで表面の粗い石(床材)にも接着でき(ただし接着力が強すぎない)、曲線にも対応できる伸縮性のある素材を選び出した。図面を基に、このカッティングシート製のテープを人海戦術で貼っていく。作業にはボランティアの方々が携わった。床などは汚れがあってテープがつきにくいため、汚れのふき取りなど準備作業も必要である(下の写真は1階の床にテープを貼る宮本)。

地下鉄栄駅を出てすぐ、センター地下2階の総合案内から十数歩歩けばそこは「炉心」である。鑑賞者は出入り口や吹き抜けのバルコニーなど任意の場所からテープを眺め、原発の大きさを想像することができる。ガラス張りのエレベーターに乗って移動しながら原発の姿を思い浮かべるのもよいかもしれない。
宮本の2012年の作品「福島第一原発神社」は、原子炉建屋に和風屋根を載せて「建屋」を「建築」に戻す行為であった。それは、危険なものを危険であると知らしめることも建築の役割であるという考えから出発していた。言い換えれば、外壁に紙吹雪のようなものが描かれた建屋は、危険の隠蔽こそが主な役割だったのではないかという疑念の表明でもあった。今回の展示にも(やたらと大きな)建屋とは何かという問題意識がにじんでいる。
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