2013年07月31日

ホテルで天井と向き合う

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初めて参加したART OSAKA 2013(7月19〜21日、ホテルグランヴィア大阪)はとても有意義なイベントだった。何もかも収穫といってもよい。もちろん初めてならではの苦労もあった。強いて一つあげれば、ホテル客室の天井を使った展示である。下見のときに天井の素材を見てはいたものの、見ただけでは十分ではないことを痛感した。

天井からつり下げたのは寺村サチコの立体作品である(寺村自身は展示に来られず)。ベッドの上から天井近くまでの高さがあるとはいえ、素材はシルクオーガンジーだから軽い。作品の4カ所にテグスを通し、それらを両面テープで樹脂製の天井に貼ればよいと、簡単に考えていた。ところがテグスが細いだけに、テープとテグスが接する部分に圧力がかかり、テープがはがれてしまう。後ではがしやすいようにと、強力なテープを使わなかったせいもあったかもしれない。

ギャラリーであれば、天井に金具をねじ込んでテグスをかければ、それで完了だ。しかし客室の天井に穴をあけることはできない。何かで貼り付けるしかないが、どうやって貼り付けるのか……。ベッドにしゃがみ込んで考えていると、もう一つの部屋で展示していた彫刻家の伊東敏光がアドバイスをくれた。天井に両面テープを貼っておき、テグスを巻いた一円玉をとりつけるというのがそれだ。一円玉をかませるのは接着する面積を大きくして圧力を分散させるのが目的である。

これが大きなヒントになった。一円玉を使うだけではまだ万全ではなかったが、何かのまん中に穴をあけてテグスを通し、四方に巻けばよいのである。もちろん一円玉に穴をあけることはできない。そこで厚紙を小さく切ってまん中に穴をあけ、テグスを通すことにした(写真は使用済みの部品)。あとは強力な両面テープを使えば完璧か。

結局、プレビュー当日(19日)の朝、樹脂と強く接着し、しかも1週間以内であれば糊が残らないというテープを文房具店で見つけることができた。これらの材料を手に、展示室である客室で天井と向き合い、作品をつるテグスと格闘した。部屋にいた日本画家の福元章子が「1時46です」「1時54分です」と、時刻をアナウンスして緊迫感を高めてくれる。作業が完了したのはプレビューが始まる午後2時ちょうどであった。

アートフェアの期間中、寺村の大作は凛として立ち続け、終了後、テープはきれいにはがすことができた。ただ、あの展示作業を思い出すと冷や汗ものである。今、東京のホテルでこの記事を書いているが、天井の素材が気になってしまう。
posted by Junichi Chiba at 23:51| アート