
彫刻家、伊東敏光の渾身の作品「AA60」を橘画廊に展示している(4月20日まで)。縦405センチ、横415センチ、高さは167センチ。時代に逆行するかのような巨大な単品彫刻だ。これを目にした宅配便のドライバーの方が「デカいな〜。すごいな〜」と、しきりに感心していた。
一目でわかる通り、主な素材は古材であり、飛行機をかたどっている。モデルはアメリカン航空の成田−ダラス間に就航している旅客機。本物のボーイングの機体に比べれば15分の1程度だが、彫刻としてはデカい。普通、画廊に展示する彫刻といえば、せいぜい1メートルか2メートルのものだろうから、「デカい」というのは素直な感想に違いない。
どうして、木の彫刻でこんな大きなものができたかといえば、素材があったからだ。伊東によると、「AA60」の胴体部分は広島大学の体育館の梁であった(伊東は広島市立大の教授)。その体育館は被爆建物であり、だいぶ前に保存の話もあったが、結局、取り壊してしまい、伊東が梁をもらい受けた。もらったときには、なぜか焦げていた。
実はこの作品は、ただの飛行機型の彫刻ではない。作家としては彫刻による風景の表現に挑んでいる。昨年夏、米国のテキサスなどに滞在したときの記憶の中の風景がモチーフなのだ。飛行機はフレームの代わりであり、少なくとも伊東の中では、半々以上に飛行機よりも風景の表現に重点を置いている。
しかし鑑賞者のほとんどは「飛行機の彫刻」という認識だ(それは間違っていない)。女性の場合は、頭の部分が顔に見えるとか、胴体に載っている石が人間みたいだとか、細部も意識する方が多いようだが、男性は「デカいヒコーキの迫力」で十分満足されるようだ。「男の子の夢だね〜」と言ってうなずく方が典型である。
「ヘリコプターでつるして空中を飛ばしたら面白いのに」というご感想もあった。「勢いつけて放したら飛ぶんちゃうか」と……(もちろん、揚力が働くように設計されてはいない)。あるいは「米軍に頼んで航空母艦のカタパルトで発射してもらったら」というご意見も。予想以上に大きなものを見ると、感覚が解放されるというか常識のタガがはずれるというか、いろいろ想像が膨らんできて楽しい。
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