
さらに話を追うと、「雲出ずる社」(福島第一原発神社)からは「青い光と見えない雲」が発生し、人体に影響が出ているという設定だ。
登場人物A「青い光……」
B「近ごろはご機嫌斜めだな」
A「しばらく外に出られそうにないわね」
C「大丈夫かな」
D「雲の発生はないみたいだな。アラームも鳴ってないし」
こんな具合である。建築はモノで見せるが、演劇は役者の声や体で見せる。雲出ずる社というモノは見えなくても、存在を伝えようとしている。
と思っていたら劇中劇が始まった。
「ああ、お姉さま。たった1日のうちに、2人の兄弟は嘆きに満ちた最期を遂げたのです。今となっては私たちだけがのこされたのです」
芝居がかった(芝居なのだけれど)大げさな振る舞いが心地よい。ギリシャ悲劇を演じる場面を経て、先へ行けば行くほど話が深まっていくという組み立てのようだ。
30分ほどたって、演出家の田中孝弥(写真左)が稽古を止め、ダメ出しを始めた。「○○あたりの動きが遅いね」「あそこはもうちょっと違うニュアンスなんだけど」。その都度、役者と意見交換し、動きやセリフを確認する。1月28日に台本の決定稿ができたばかりで、まだ細かい演出を試している段階だ。
再開後40分たって休憩になった。外でタバコを吸っている田中と雑談。彼によると、年明けから週3日、2月に入ってからは週5日、夜に3時間の稽古を続けている。その前の段階もあるので、上演時間の100倍を超える時間を費やしていることだろう。芸術関係の仕事は生産工程を短縮できないのが宿命だが、演劇の場合、役者とスタッフが同じ時間、同じ場所に集まらなければならないのでなおさら大変だ。そこまでして何かを伝えようとしていることが感動的である。
本番の舞台では、何かしら施設のイメージを示す仕掛けがあるらしい。それを含めてどんな舞台ができるのか、3月8〜10日の本番を楽しみにしたい。
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