2013年02月13日

「福島第一原発神社」が劇に

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ひょんなことから小劇場の芝居の稽古を見に行った。1月下旬、清流劇場の代表で演出家の田中孝弥から、「3月8〜10日に伊丹アイホールで公演します」と、メールをもらったのがきっかけだった。

田中とは2004年にベルリンで一緒に食事をして以来、数年に一度くらいの感じで会っている。劇団の本公演は30回目なので、まずは「相変わらずがんばっているな」と思ったが、次の瞬間、驚いた。なんと「原発神社」を参考にしたと書いてあったのだ。あとで聞いてみると、「原発神社」にインスパイアされて新作をつくったというではないか。興味津々、本番を待てずに稽古におじゃました。

昨年3月、建築家の宮本佳明が橘画廊で「福島第一原発神社」の展覧会を開いた。事故を起こした福島第一原発を神社として祀り、放射性廃棄物をその場で1万年にわたって保管するというプロジェクトを建築模型で示した。けっこう、あちこちで反響を呼んだが、まさかあれを舞台化する人が出てくるとは予想もしなかった。

平日の夜、大阪・天満の稽古場を訪れた。建物の2階にある稽古場は橘画廊の展示室よりやや狭いが、天井が高い。コンクリートの壁に声がよく響く。テーブルの上に台本が置かれていたので、さっと目を通す。タイトルは「ANTIGONE in the Debris 瓦礫の中のアンティゴネー」。ギリシャ悲劇の「アンティゴネー」を下敷きにしている。

午後7時過ぎに8人の役者がそろい、稽古が始まった。鍛えられた声を聞くのは心地よい。舞台は1万年後の「日本」である。2011年に書かれた「アンティゴネー」という本が発見され、登場人物たちは「見つかった場所もあれですよね」「はい、雲出ずる社(やしろ)の近くで見つけました」などと言っている。宮本の「原発神社」は劇中では「雲出ずる社」という名前になっていた。

1万年後の「日本」では日本語が消滅し、国のかたちも変わっている。それを見越して宮本は、危険を明示する目的で原子炉建屋に和風屋根を載せるというアイデアを出したわけだが、残念ながら1万年後の人たちは原発事故に関する事実関係を継承していない(芝居の中の話です。念のため)。なんとなく小松左京のSFのようでもある。(続く)
posted by Junichi Chiba at 18:36| アート