2012年12月11日

タチカワ・ブラック

橘画廊で個展開催中の若手美術家、刀川(たちかわ)昇平は黒へのこだわりが強く、作品の中の黒をほめられると喜ぶ。特に、ポリスチレンフォームを素材に制作した細長い楕円のような立体が本人会心の作である。画廊に来られた方に「黒いな〜。どうやって色を出しているの」などと聞かれると、ニコニコ顔だ。

画材はターナーのジェットブラックというアクリル絵の具である。原料は植物が化石化した鉱物。下地との関係で、つやのない黒さが際立つらしい。刀川によると、カシュー塗料や鉛筆、炭なども含めて、いろいろ試した結果、ターナーのジェットブラックが一番黒かった。たしかに、その作品は立体であるのに黒の部分だけ立体感がなく、吸い込まれそうな感じがする。パソコンの画面では光沢のなさを表現しようがないし、画像を印刷しても、インクの黒以上に黒くはならないので、実物を見てもらうしかない。

隣の部屋のグループ展に出品している福田遼子がたまたま2日前、友人と一緒に「めっちゃ黒いカラス」を見て、「あれより黒い色があるだろうか」と議論していたそうだ。そのときの結論は「あのカラスより黒い黒はない」だったが、刀川の黒を見て、あっさりと結論がひっくり返った。刀川に聞かせてやりたい話である。福田自身は自作に黒を使わないので、黒の絵の具を買うこともないのだが。

それにしても、なぜ彼はそこまで真っ黒にこだわるのだろう。ターナーのジェットブラックを超えたいと思っているのか、「自分で黒の絵の具をつくってみたい」とさえ考えている。もともと破壊や死をイメージする色として使っていたが、追求し出したら止まらなくなったのかもしれない。

フランスの画家、イヴ・クラインはモノクローム(単色)の絵画で知られる。特に、深遠な青には「インターナショナル・クライン・ブルー」と名づけ、それを彼の専売特許にしてしまった。単なる青一色のパネルであっても、人々がイヴ・クラインの「青のモノクローム」として鑑賞すれば、それはアートとして成立する。刀川もジェットブラックより真っ黒な黒を開発し、「インターナショナル・タチカワ・ブラック」と宣言すれば、その黒だけでアートが成り立つだろうか。
posted by Junichi Chiba at 19:19| アート