
神戸アートマルシェに出品していた浅野綾花の銅版画「美しい村では星うつしをみることができ、森の鏡には種の夢が映るんだよ」(上の画像、2019年、40×40センチ)を見て、タイトルの意味を質問されている方がいた。浅野によると、2019年、信濃追分(長野県軽井沢町)の滞在制作で生まれた小品「美しい村」「星うつし」「森の鏡」「種の夢」の4点の版を1枚の紙に一色で刷ったのが、この長いタイトルの作品だ。
信濃追分は堀辰雄ゆかりの地であり、堀が感じた風を想像しながら制作したと、浅野は話していた。先に作った「美しい村」という作品のタイトルは堀の短編小説『美しい村』から借りている。『美しい村』にはバッハのフーガ(遁走曲)の影響があるといわれるが、浅野はあとから作った「美しい村では星うつし〜」で、曲が少しずつ展開するフーガのように、版画のイメージを展開させてみたかったのかなと、勝手に想像してしまった。
4つのイメージの輪郭は信濃追分の山並みや水路、そこで見つけた種の形などだ。複数のイメージの並置によって新しいイメージや連想を呼び起こすことは珍しくないが、浅野の作品の場合は、何か超越的なものを感じさせるイメージを生み出している。小説『美しい村』の主人公が「花だらけの額縁の中へすっぽりと嵌まり込むような、古い絵のような物語」を書こうとしたように、田園の中で魂の清めの作業をしたのかもしれない。
「森の鏡」「種の夢」といった言葉の組み合わせも、自然に宿る力みたいなものを思わせる。星うつしをみることができて、森の鏡に種の夢が映るという言葉の意味はわからなくても、この長いタイトルも作品の一部なのだと確信できる。
下の画像は神戸メリケンパークオリエンタルホテルからの景色。
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