2021年12月31日

「行路難」のその後

中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の郭平輪番会長が2019年の年頭所感で李白の詩を引用したことを2年前のブログでネタにした(2019年12月15日、「ファーウェイと李白」)。ハイテク企業のトップである同会長が李白の「行路難」の一部を用いて、「風に乗り波をかき分けられるようになる時が必ずやってくる」と、従業員の士気を鼓舞しているのが興味深い、といったことを書いた。

その後、ファーウェイはどうなったのか。米国の制裁強化によってスマホ用の高性能な半導体を調達できず、スマホの売り上げが落ち込んでいるのは明らかだが、2021年7〜9月期の純利益は151億元(約2680億円)で、前年同期比26.5%の大幅増である。その郭平会長は10月29日の決算発表資料で「業績は予測通り。これまで通りイノベーションに取り組み、研究開発と人材獲得における投資を拡大する」と説明している。

米国が圧力をかければかけるほど強くなっているのはファーウェイだけではない。今年5月のNikkei Asiaの記事によると、中国ではすでに、最先端である128層のNANDフラッシュメモリーチップを大量生産しているし、半導体の各製造工程で欧米トップ企業に対応する企業を育成している。米国の制裁は中国を停滞させるどころか、むしろ中国の技術革新を加速させているわけだ。

2年前に書いた通り、李白や杜甫の詩、『論語』『史記』などは中国の文化力のかたまりであり、それらは仲間を統合するためのソフトウエアである。米国や日本など「古典を持たない国」の人たち古典を「ここではないどこかの物語」と思いがちだが、「古典を持つ国」の経営者たちは古典を「いま、ここで取り組むことの手本」として読んでいるのだろう。どんなときでも参照すべきモデルを持つ強みを米国は想定していなかったのではないか。
posted by Junichi Chiba at 13:22| 日記