2021年07月12日

小説『アウターライズ』

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たまたま読んだ赤松利市の小説『アウターライズ』が面白かった。東日本大震災級の大地震、アウターライズが発生した後、東北が独立したという設定で、外国である日本のマスコミが東北国誕生の謎を探るという物語だ。作中の謎の人物、Lonely Dragonがネット上の論文で、徹底して日本人を搾取者、東北人を被搾取者として描いているが、それは間違いなく作者である赤松の怒りの表れである。

たとえば作中の論文はこんなふうに意見を記している。「東北を支援する人たちはKIZUNAという言葉を口にした。この言葉が人と人との繋がり、あるいは助け合いを意味するようになったのはつい最近のことだ。もともとの意味は違った。KIZUNAは木の綱を意味する言葉だった。すなわち家畜や犬を通りがかりの立ち木につないでおく綱がKIZUNAなのである。東日本大震災においてこの言葉が多用されたことに私は深読みを禁じ得ない。彼ら日本人は、被搾取の歴史を歩んできた東北や東北人を、家畜や犬のように感じているのか、というのは言い掛かりだろうか?」

「言い掛かりだろうか」と言いつつ、作中人物のLonely Dragonはこう主張している。「東日本大震災において成されたのは復興ではない。復旧だ。再びの搾取を可能にするために、日本国は東北を復旧したのだ」。被災地で土木作業員をしていたという赤松は東北の事情に詳しいらしく、細かいエピソードからも義憤が感じられる。

特筆すべきは、この義憤の塊のような物語をエンターテインメントの装いで書き切ったことだ。ディストピア小説ともいえるが、現実とはまったく違う世界を提示したわけではない。現実社会を見る角度をずらすことによって、そこがすでに地獄であるかもしれないことを気づかせつつ、その中で前向きな気持ちが芽生えることも描いている。時間つぶしのための作品ではないだろう。
posted by Junichi Chiba at 20:52| 日記