2021年01月25日

石岡瑛子と「落下の王国」

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東京都現代美術館(東京・江東)で開かれている展覧会「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」を見た。2012年に亡くなったデザイナー、石岡瑛子の回顧展である。資生堂やパルコの広告、オリンピックやオペラの衣装デザインなどいろいろある中で、私が一番面白いと感じたのは、石岡が衣装を手掛けた映画「落下の王国」(2006年公開、ターセム・シン監督)であった。

撮影中に負傷して半身不随となったスタントマンの青年が、病院で出会った少女に作り話を聞かせると、その少女が頭の中でどんどんイメージを膨らませていくというファンタジーだ。石岡がデザインした衣装を含めビジュアルがとても魅力的なのだが、映画の設定自体も興味深い。まったくの虚構であるにもかかわらず、少女は青年の語りに感化され、物語の中に入り込んでしまうのだ。

展示室の壁に映された映像を見ながら思い浮かべたのは、感情に影響されるあまり、現実と虚構の区別を失う現代人の姿や、そうした人たちが生み出す現実の事件のことであった。たとえば、ロシアが流したフェイクニュースをウクライナ南部(クリミア)の住民が自らSNSで拡散し、ロシアのクリミア併合を手助けした、といった出来事である。ふだん、デザイナーの展覧会で国際問題や社会問題など考えることはないのだが、この作品は映画ということもあって、思考を刺激する要素が豊富にあった。

作品中、青年が語るのは、6人の勇士が登場する「愛と復讐の物語」だ。展示解説によると、その青年が変身する黒い盗賊にはスペインの闘牛士や日本の侍などのイメージが継ぎ合わせられている。つまり石岡がデザインした衣装は異国趣味にあふれていて、こんなことを言うと不謹慎かもしれないが、どこかの国や組織が兵士の勧誘に使えそうな引力を備えている。何がこの引力を生み出したのだろうか――。そんなことを思いながら見ていると、アートとプロパガンダみたいなテーマも頭をよぎってくる。
タグ:落下の王国
posted by Junichi Chiba at 18:54| アート