2020年10月28日

負けを認めたニクソン

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映画「スター・ウォーズ」に出てくる銀河帝国のパルパティーン皇帝は、カエサルやヒトラーをモデルにしているはずだが、米国人はパルパティーンに「法と秩序の権化」といわれたニクソン(米国第37代大統領)のイメージをかぶせているらしい。現在のトランプ大統領は今年、黒人男性の死亡事件で抗議デモが広がったとき、「私は法と秩序を尊重する大統領だ」と宣言し、そのニクソンにあやかろうとした。

一方、銀河帝国と戦うレジスタンスの戦士、ルーク・スカイウォーカーには、ジョン・F・ケネディ(第35代大統領)のイメージがあるらしい。若くて、さわやかで、「忍耐強く平和の道を探ろう」(1961年の演説)と呼びかけたケネディのふるまいが、中央集権的、強権的なものに抵抗するルークのキャラクターと重なったのだろう。

もちろん政治家というのは映画のキャラクターほど単純でもなければ、わかりやすいものでもない。ケネディの父ジョセフはなかなかの悪人(密造酒の生産者)で、マフィアとの関係が深く、ケネディとニクソンが争った1960年の大統領選では、マフィアを介して大規模な不正を働いた。選挙の結果は僅差でケネディの勝利だったが、ケネディに投票した有権者は、必ずしも信念があって彼に投票した人ばかりではなかった。

「スター・ウォーズ」では、師匠のオビ=ワン・ケノービがルークに「お前の父親はフォースの暗黒面に誘惑され、アナキン・スカイウォーカーではなくなった」と説く場面があるが、ケネディの場合は初めから、自分の父親が悪人だったことを知っていたし、本人もマフィアにかかわっていた。多くの米国人はそうした事情を知らされていながら、ケネディの清新なイメージを大事にして、ケネディとルークを重ねて見ている。面白いといえば面白い話だ。

ただし私が興味を感じるのはケネディよりニクソンの方である。ニクソンは大統領選でのケネディの不正を知っていながら告発せず、負けを認めた。選挙に負けても政権を委譲しないと言うトランプ大統領とは正反対である(投開票まであと1週間!)。ニクソンは、いずれ国民は自分の政策を理解してくれると楽観していたのか、あるいはケネディの人気は長続きしないと見定めていたのか。ニクソンはウォーターゲート事件で失脚し、悪者のイメージがしみついてしまったが、大局観を持つ政治家だったのではないか、という気はする。
posted by Junichi Chiba at 00:39| 日記