2019年07月15日

ナポレオン生誕250年

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今年はナポレオンの生誕250年である。どこかでそうした情報に触れていたからか、新聞や書籍で「帝国」「皇帝」といった文字を見ると、ナポレオンのイメージが浮かんでくる。征服精神にあふれたナショナリスト、あるいは武力行使をいとわない強力な指導者のイメージだ。ロシアのプーチン大統領やトランプ米大統領にもそうしたイメージがかぶる。

プーチンやトランプが政治家として人気があるのだとしたら、それはナポレオン的なリーダーが人々に求められていることの証左だろう。「ナポレオン」は伝説的なキャラクターであるだけに、そのイメージは実世界と架空の世界を行ったり来たりしながら膨らんできた。実際、ユゴー、バルザック、スタンダール、トルストイら文学者は、ナポレオンから大きな影響を受けている。ナポレオンを否定することさえナポレオンのイメージを強化した。

文学だけではない。映画「スター・ウォーズ」のダース・ベイダーにもナポレオンのイメージがある。ダース・ベイダーが仕える帝国は一貫して邪悪な存在として描かれているが、主人公のルーク・スカイウォーカー(共和国側)がどれだけ活躍しても、観客をひきつけるのはダース・ベイダーだ。本編ではない「ローグ・ワン」でさえ、彼が一番目立っていた。ナポレオン的なキャラクターは時代が変わっても古びていない。

150年以上前、そのナポレオンに挑んだ作家がいた。フランスの小説家、ユゴーである。ユゴーは『レ・ミゼラブル』で、ナポレオンとは対照的な人物としてジャン・ヴァルジャンを描き出した。2人は同じ1769年生まれだが、ナポレオンが権力志向の誇大妄想的な軍人だとすれば、ジャン・ヴァルジャンは悪事を働くものの根は善良な市民である。ユゴーはナポレオンを乗り越えたかったらしく、『レ・ミゼラブル』を翻訳した西永良成の言葉を借りれば、ジャン・ヴァルジャンを何度もイエス・キリストになぞらえている。

しかし今、ジャン・ヴァルジャンが、同い年のナポレオンほど人気があるだろうか。尊敬できる人間でも大衆受けするとは限らない。現代人から見れば、ダークサイドの魅力という点で、ナポレオンやダース・ベイダーに分があるだろう。ジャン・ヴァルジャンは純粋過ぎるのかもしれない。悪魔的な激情とクールな知性が同居するナポレオン的なキャラクターの魅力は今も強い。
posted by Junichi Chiba at 21:33| 日記