2017年04月13日

キム・セリョンの庭

Kim Seryung.jpg
橘画廊では今、韓国の若手アーティスト、キム・セリョンの個展「GARDEN」を開いている(とりあえず16日まで)。板の上に水性インクや接着剤、砂などで絵を描いて紙に写し取るモノタイプ&コラグラフィーなどの技法で「庭園」をテーマにした作品11点を展示している。作品によって細かな技法の違いはあるが、大まかに言えばキム・セリョンは版画の作家だ。

今年1月、セリョンが送ってきたメールに、展覧会のテーマとして英語で「Garden」、日本語で「庭園」と書かれていた。子どものころ小さな村で過ごし、繊細な蝶の羽、バラの花びらの色、ユリの香りなどから霊感を得て育ったという記述もあった。よくあることだが、自然を発想の源にしているという文脈である。しかし「庭園」というのは、樹木を植えたり石を置いたりして鑑賞のために整えた場所のことだから、子どものころに接したのが畑の近くの平地のようなところだとしたら庭園とは違うかなと、そのときは思った。

その後、セリョンから届いた新作「Garden1」(2017年、コラグラフィー、モノタイプ、木版画、60 x 90 cm)の画像(下の写真)を見ると、ユリやハイビスカス、バラ、パンジーなどの花が季節とは関係なく、画面上に浮遊していた。明らかに、自然の一部を切り取ったイメージではなく、頭の中で作り上げたイメージである。それを見て、「庭園」とは想像上の庭園なのだと納得した。

Seryung KIM Garden1 2017 Collagraphy, monotype, woodcut, 60x90cm.jpg
版画とはいえ、彼女の作品はグラフィック的ではなく、むしろ絵画的である。版画の技法を使うのは、予期しない効果を生み出すためなのだろう。そうした制作は子どものころの記憶を呼び起こすというよりも、おそらく新しい感覚を生み出すことを狙っている。キム・セリョンの庭は安らぎの場所であり、未知の場所でもあるようだ。
posted by Junichi Chiba at 18:35| アート