2016年11月01日

モニュメントのような立体

伊東敏光+康夏奈「潮耳荘」
10月下旬の晴れた日に、小豆島の西にある土庄港から三都半島の南の神浦に向かった。瀬戸内国際芸術祭2016に参加している伊東敏光らの大型作品「潮耳荘」を見るのが一番の目的だった。バスを乗り継いで1時間余り。終点の神浦西で下車、しばらく歩くと、それはすぐに目に入ってきた。おそらく2階建て住宅の屋根よりも高く、立体作品というよりも構築物といった方がよさそうな佇(たたず)まいなのである。

東京芸大の展覧会のオープニングで伊東と会ったときだから9月28日だったはずだが、瀬戸内国際芸術祭の秋会期が10月8日に始まるというのに、伊東は「まだ完成していない」「とにかくやるしかない」と、悲壮感を漂わせて話していた。それが見事に完成していた。制作したのは伊東と康夏奈、広島市立大学芸術学部の有志である。

「潮耳荘」は高さ8.5mのドーム型。素材は小豆島で集めた廃材だ。それらを立てた鉛筆のようにして並べ、壁と天井をつくっている。より詳しく言うと、シルエットは大小2つの釣鐘を横に連ねた形で、大きい方の「釣鐘」に人の出入り口がある。そして大きい「釣鐘」からは、目の前の海に向かって巨大な赤いラッパ型の集音器が飛び出している。海に面した場所といい、日常を超越した雰囲気といい、何かのモニュメントのようにも見える。

内部も古材がむき出しで、天井の木と木のすき間からは光が差している。壁にあるラッパの口に耳を当てると、潮騒が聞こえてきた。最初、「潮耳荘」という作品名を聞いたときは冗談みたいな名前だなと思ったが、ここに来れば腑に落ちる。ドームの中で波の立てる音を聴き続けていると、すっかり気分が落ち着いてきた。またどこかで波の音をゆっくり聴いてみたいとも思った。海の音を聴くという行為を意識的にとらえるという点で、「潮耳荘」はサウンドアートでもある。
posted by Junichi Chiba at 23:33| アート