2016年08月04日

映画を連想させた一枚

Akira Kamo Death grows in the soil 2016.jpg
先月、加茂昂展「土に死を生ける」の会期中、数人の年配の方からスタンリー・クレイマー監督の映画「渚にて」の話を聞いた。一枚の絵から映画の世界を連想したとのことだった。その絵の中では、地面全体が雪に覆われていて、Wax「California」のミュージックビデオに出てくるような火だるまの男が雪の上を走っている。「渚にて」について語った方は、加茂が描いた雪を死の灰と見たらしかった。

「渚にて」はグレゴリー・ペックが主演した1959年の作品である。一度も見たことがなかったので、会期後、DVDを借りて視聴した。映画の舞台は、核戦争によって北半球が全滅した後の豪州。本国に帰還できなくなった米国の原子力潜水艦がメルボルンに入港する。しかし豪州にも死の灰が迫っていたため、艦長のタワーズ(ペック)らは一縷の望みをかけて北極圏へと出かけていく、といったストーリーだ。

面白いと思ったのは、潜水艦が米国西海岸に寄ったとき、脱走した兵士がいたことだ。放射能で汚染された米国で生きていくことはできないが、潜水艦に戻っても遠からず死ぬことは見えている。問題はどうやって生き延びるかではなく、死ぬまでの時間をどう過ごすかである。兵士は人生の最後に故郷の海で釣りを楽しむことを選んだのだった。

加茂の絵では、雪が丸くとけて地面がのぞく部分があって、安全地帯のようでもあるのだが、そこには人骨が横たわっている(ということは安全ではないわけだ)。たしかに「渚にて」を見た後にこの絵を見ると、雪がとけた部分は潜水艦の中、雪の上を走る火だるまの男は脱走した兵士に重なって見えないこともない。絵画と映画の意図は違っていても、どこか響き合うものがある。画像は23点の油彩画で構成するインスタレーション「土に死を生ける」。右端の下が「渚にて」を連想させた一枚。
タグ:加茂昂
posted by Junichi Chiba at 16:59| アート