2021年10月25日

GTT

DVDで映画「スター・ウォーズ 新たなる希望」(1977年)のラストシーンを見ていたら、あることに気がついた。反乱軍が帝国軍の宇宙要塞デス・スターを破壊した後の式典で、レイア姫はまずハン・ソロ、次にルーク・スカイウォーカーの順にメダルを授与しているのだ。デス・スターにミサイルを命中させたルークではなく、いったん反乱軍を見捨てながらも戻ってきてルークを支援したソロを優先しているのは、レイアがソロを好きだったからというよりも、やはりアメリカ人がソロのような人物を好きだったからではないだろうか。

ハリソン・フォードが演じたハン・ソロは無頼漢のパイロット(密輸業者)で、借金取りから逃げ回りながら一攫千金を狙っている。19世紀前半のアメリカでは、多額の借金を抱えていてもメキシコ領のテキサスに逃げ込めば自由になれる、といった意味でGone to Texas (GTT)という表現が使われたそうだが、ソロの行動はまさにGTTだ。アメリカ人は、GTTを実践し、自由を手に入れた末、仲間に恩返しをするハン・ソロに喝采を送りたい気分があったのだろう。

ソロの参戦は、第二次世界大戦に後から参戦し、ヨーロッパを救済したアメリカの行動とも重なっている。ヨーロッパのような文化の蓄積がなく、西洋文明の辺境の国として引け目を感じていたアメリカは、ヨーロッパを助けることで予想外に自信をつけてしまった。レイア姫からメダルをかけてもらい有頂天になったソロの姿は、第二次大戦の勝利で自信を持ったアメリカの姿であり、1950年代のアメリカの気分の反映として見ることができそうだ。

もっとも、アメリカの自信は過剰だったのかもしれない。冷戦時代のアメリカは芸術面でもソ連との戦いに勝利しようと、アートなどの芸術文化を外交に利用し始めた。特にマーク・ロスコやジャクソン・ポロックなどの抽象絵画は、ソ連の社会主義リアリズムの対極にあるため、表現の自由を示すプロパガンダには格好の材料であった。もともと抽象絵画の画家たちは政治から距離を置き、ソロと同様、もっぱら自分のことに関心を持っていたはずだが、自由な気風が強いからこそ政治に利用されてしまったのは皮肉なことである。

「スター・ウォーズ」に関して言えば、ハン・ソロはメダルなどもらわず、チューバッカとともにミレニアム・ファルコンで飛び去ってしまえばよかったのではないか。レイア姫がいたから、それができなかったのかもしれないが。
posted by Junichi Chiba at 18:59| アート